「幸子」

小学生の頃。

学校の帰り道で、赤いランドセルを背負った一人の少女に呼びかけられた。
どことなく浮世離れてしている雰囲気のその子は、胸の部分に「幸子」と書かれた名札をつけている。


「あの」
幸子は僕の前で立ち止まる。真っ赤なランドセルに白のワンピース。雪のように白い肌と澄んだ大きな瞳を持つ女の子だった。


「ずっとあなたのことが気になっていたの。」
そう言ってニッコリと笑う彼女は太陽のように輝いていた。

それからというもの、幸子は僕と一緒にいることが多くなった。


学校から帰る通学路。
「おいかけっこしよう」と突然走り出す幸子。ふわりと揺れる綺麗な後ろ髪に思わず目が釘付けになった。


夏休みの間に出かけた田舎の海辺。
僕の友人たちの中に混じって遊んでいる幸子。
「こっちにおいでよ」と砂まみれになりながら彼女は笑っていた。


中学生の時。初めて行った遊園地でのデート。
「あれに乗りたい」と観覧車を指さし、僕の隣ではしゃぐ幸子。


高校生。夏の花火大会。
「なんて綺麗なのかしら」とうっとりした声を出す幸子。



そして社会人。一世一代のプロポーズ。

「素敵……」
眩しそうに目を細めた幸子。



すぐに子供が生まれる。
純粋無垢な赤ん坊を見て「まるで天使みたいね」と頬を緩ませた幸子。




やがて子供達は成長し、独り立ちをする歳となった。

「大丈夫かしら。」
上京する長男を見て、不安そうな表情をする幸子。


さらに月日が経ち、僕の体は当然のように歳を取る。

そして先日。ついに妻が亡くなった。

病室のベッドの上。僕が見ている前でゆっくりと妻は息をひきとる。
「ご臨終です」
医師の声が聞こえる。

「とっても幸せだったわ」
穏やかな顔で、最後に彼女はそう言った。


「僕もだよ」
妻のしわくちゃの手を握りながら僕は答えた。
心の底から思っていたことだ。

彼女は静かに目を閉じ、そして何も言わなくなった。




「また、二人だけになっちゃったね」

僕の隣で、真っ赤なランドセルを背負っている幸子が言った。


「うん」
僕は小さく答える。

近くにいた医師が不思議そうに僕のことを見ていた。




……幸子。


彼女は僕の側で、たくさんの「幸せ」を届けてくれた。

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