「ペットロス」

真っ暗な闇の中心に一匹のしば犬がいる。

「ラッキー?」
僕が呼びかけると、ラッキーは尻尾を左右に振った。周囲はボヤっとしているのに、彼の姿ははっきりと認識できる。どうやらこれは夢の中らしい。


ラッキーはくるりと体の向きを変えると、そのままどこかへ走り去ろうとした。
「ラッキー!」


そこで僕は目が覚めた。

「あ、起きた?」
目の前には僕を覗き込む妻の顔があった。結婚して今年で10年。
お互い40歳になるのだが、まだ子供はいない。

「夢を見ていたんだ」
自分の頬を触ってみる。涙の流れた痕があった。

「ラッキー?」
「うん」
結婚してから飼い始めた犬。名前はラッキー。彼が先週死んでしまった。

「ペットロス……ってやつかな?」
「どうだろうね」
彼女は寂しそうに首をかしげた。


「まるで、自分の体の一部分が欠けた気分だよ」
僕の言葉に、妻は困ったような表情をする。


大の犬好きということもあってか、ラッキーが死んだ時、僕の取り乱し方はひどいものだった。
なかなか立ち直ることができず、この一週間は有給を使って一日中ふさぎ込んでいたくらいだ。


泣き疲れては眠り、夢の中でラッキーと出会っては、朝起きた時に泣きそうになる。そんなことを繰り返した。

子供がいない僕にとって、それくらいラッキーは大事な存在だったのだ。


「外にでも行こっか」
妻がカーテンを開ける。夕陽が眩しくて目がくらんだ。


「うん、そうだね」
僕は頷き、立ち上がろうとする。

しかし、バランスを崩してベッドから落ちてしまった。立ちくらみとは違う。なぜかうまく立てない。

そこで初めて、一つの異変に気付く。


「ここは……どこ?」
真っ白い壁。広い部屋。自分の部屋でないことは間違いない。

「覚えていないのね」
妻が言う。


「2日前、あなたは事故に合ったの。急に道路に飛び出してトラックに轢かれた。運転手の人が言うには、まるで何かを追っかけているみたいだったって」
そこで僕は、自分の下半身に目をやった。


先ほど自分が口にした、「体の一部分が欠けた気分」というのが比喩じゃなかったことに気づく。



「さぁ、行きましょう」
彼女は一台の車椅子を手に持ちながら、励ますようにそう言って笑う。


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