1日のうち、必ずといってよいほど人間が見るものがある。それは鏡だ。
朝起きた時、出かける前、トイレにて、帰宅の後、就寝前。日常生活のあらゆるところで鏡を目にする機会は多い。

だから、その鏡が進化するのは全くもって不思議な話ではない。
むしろ今までなぜこれほどまで原始的な状態で残っていたのかと疑問に思うほどである。

私はそんな鏡メーカーに勤める社員。もちろん私の家には最先端の鏡が置いてある。

ふと覗いた人間の表情を分析し、最適な表情を提示するのだ。
「口角をあげてください」「目を3秒間、思いっきり開いてみましょう」
指示された声に従って顔の運動をするのだから、忘れることもない。

またそのガイダンスの途中に広告を入れたらマネタイズにもなる。あっという間にビジネスモデルが出来上がった。

そして今、この最先端の鏡があちこちで大ブームとなっている。
表情が変われば気持ちも変わる。1日数秒のちょっとした顔面運動で表情筋が鍛えられ、老化を抑えることができる。
人気が出るのも当然だった。

その進化はとどまることを知らず、より高い精度で、より人間に意識させることなく、人間の表情をよりよいものにする製品が登場するようになった。
つまり、鏡に映った人間の顔を即座にスキャンし、その人物の”ほんの少し”だけ整った表情を映し出すのである。

この”ほんの少し”というのがポイントだ。明らかに違う顔が映し出されると、鏡本来の役割を失ってしまうし、意識的に表情をよくしようとしてしまう。
だが、僅かの差異であるならば無意識のうちに、実物が鏡の顔へ寄せようとしてしまうのである。そして鏡通りの表情になった後はさらにまた少しだけ良い顔を鏡が映し出す。

このループにより、鏡を見れば見るほど良い顔になっていくという好循環が出来上がったのである。

0コンマ何秒だけ未来の表情を提示する鏡。これこそが未来の鏡のあるべき姿なのだと誰もが信じていた。
が、ふと私は疑問に思ってしまうことがある。

鏡の中のほうが僅かであるが未来の世界。
まるでそれは向こうに映し出された景色が本物で、私たちは虚像の住人のようだと。


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