人間が初めて宇宙へ行ってからしばらくの時が過ぎた。

ロケット技術は凄まじく発展し、安全度は宇宙へ到達する時間も比べ物にならないくらい改善された。


止まらない環境破壊、勃発する核実験によって地球の損傷は凄まじいらしく、もちろんここから先100年ばかりは問題ないらしいが、いずれ人類全体は新しい移住先を見つける必要性があると判断されていることが大きな理由らしい。


しかし、宇宙旅行そのものはまだ、民間人に解放されてはいない。
そして、それの理由もまた明かされていなかった。

安全性の確保がまだまだ不十分であるとか、コストがかかり過ぎているとか、どこか取って付けたような理由でずるずると先延ばしにされているのである。


だからこそ、私が今、妻とロケットに乗っていることは、非常に幸運なことと言える。

宇宙開発部門に知り合いがいて、そしてこれまで多額の援助金を出していたこともあってか、宇宙で見たものを口外しないことを条件に、搭乗が許可されたのだ。


「わくわくするわね」
ロケットの中で、妻がそう言った。
「あぁ」
私は頷く。


「宇宙から肉眼で見た地球ってどんな景色なのかしら」
「そういえばあの有名な言葉知っているか。ほら、地球は青かったってやつ」
「ええ、もちろん。でも実はそれってガガーリンが言ってなかったという話じゃなかったのかしら」
「その通り。……だがな、どうやら本当は真逆らしいんだ」
「真逆?」
妻はシートベルトで固定された椅子に座りながら、私の方へと首を傾ける。

「本当は言っていたのに言ってなかったことにされた、ということらしいんだ」
「不思議な話ね。だって地球は青いじゃない」
「そうなんだよ。青いものを青いということの何がいけないのか」

そんな話をしていると、発射のアナウンスが鳴り響き、やがて凄まじい轟音と振動とともに、私たちの乗っているロケットは宇宙へと発射される。


真っ白な雲を抜け、青い空を横切り、一瞬で私たちの周囲は真っ黒な宇宙に覆われた。

どこまでも続く終わりの見えない漆黒の空間。

やがてロケットは軌道に沿ってくるりと向きを変え、私の目の前の小窓から母星である地球が見えるようになった。


「これは……」
私は思わず声をあげる。それは感動の声ではない。戸惑いと困惑の言葉だった。

「青いわ……」
妻が言う。その声にも、動揺が微塵でいた。


目の前に広がる地球の青さは、私たちが想像していた青さではない。
もっと人工的で画一的な青さ。

例えるならそれは、パソコンのディスプレイ画面のようなものだろうか。


いや「例えるならそれは」という表現は誤りがある。


なぜなら今、私たちの目の前にあるのはまさにディスプレイ画面そのものなのだから。


円球の星の表面全てが青紫色の均一な色で覆われ、そしてその画面の上には見たことがない白文字がつらつらと書かれている。

まさにそれは、地球にエラーが発生していると私たちに伝えているようにも見えた。



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