とある高名な教授が大会議室の教壇にいる。


彼の頭上の電灯だけが点灯しているため、部屋全体はうっすらと暗い。

何度か咳払いをしたのち、彼は曲がった腰を精一杯伸ばしながら語り始めた。


「みなさん、今日は全くの新しいアトラクションへようこそ」
教授は部屋をゆっくりと見渡し、そして少し残念そうな顔をした。


「拍手がないのは少々残念ですな。……まぁ良いでしょう」
そして再び語り始める。


「今からお見せする映像は、かつてないホラー体験を提供する極上のエンターテイメント。それはそれは素晴らしい内容となっています。どうぞ最後までお楽しみください」

次に彼は、焦らすように敢えてゆっくりとした口調になった。

「……と、その前に世紀の大発明ですから、みなさんにはいったいどのような仕組みで恐怖を与えるのかご説明します」

そして、教授はニヤリと笑う。

「そんなものを教えて大丈夫なのか?と心配する必要はありません。我々が提供するのは本能的な恐怖。理性で理解したところで全くの無意味なのです。フフフ………フハハハハハ、ゴホッゴホッ」

教授がむせると、脇で待機していた助手が慌てて近づき、彼の背中をさすった。


「これは失礼。さて、私がこのサービスを作った発端は国からの依頼です。彼らは言いました『人々は刺激に飢えている』と」

彼は聴衆の反応を確かめるように、少しの間をおいた。

「今の世界はそんなにつまらないんですかな?それとも、何か目を逸らしたいものでもあるのかもしれませんね」

教授は目をギョロつかせる。しかし、相変わらずこの部屋からは彼の声しか聞こえてこない。

「おっと話が逸れました。どうやってあなたたちに極上の恐怖を体験させるかですよね。みなさん、こういった言葉をご存知でしょうか?」


ここでまた少しの沈黙。

「『美は目に宿る』。つまり、どんな美しい事柄でもそれを見ている当人が「美しい」と感じなければ意味がない。逆を言えば、澄んだ心さえあれば、人間は日常のあらゆる些細な出来事を切りとり感動できるというわけです。私はそこに目をつけました」

聴衆の反応を伺うように教授は言葉を区切る。部屋からは物音ひとつ聞こえない。


「つまり作品の良し悪しではなく、見ている当人を変えることで、その恐怖をさらに増大させられるのではと考えたのです。そして、一つの興味深い実験結果に行き着きました」


彼は目をカッと開き、落ち着きなく視線をあちこちに移動させる。

「『人間は服を着ていないとき、恐怖が8倍になる』という実験結果を聞いたことはりませんか?身にまとっているものがないため、人の恐怖心は何倍にも膨れ上がってしまうのです。そこで考えたのが今回の仕様」


彼は満足気に頷いている。

「どうですか?随分と落ち着かないでしょう。あ、大丈夫ですよ。みなさんが身につけているのは特殊なレンズでして、映像はしっかりと受容できるようになっています。さて、おトイレに行きたい方は?ハハ、いらっしゃらないでしょうね。当然です。みなさんは今、脳みそだけになっているのですから」


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