「ピエロ恐怖症」

長い海外出張から帰ってきた私が最初に任された仕事は、我が社で扱っている主力菓子をハロウィンでいかに販売するかという広報戦略に関してだった。

専門チームが組まれ、私はそのリーダーを任されることになったのだ。日本復帰後、一発目の仕事ということで自然と気合も入る。

「例えば、ピエロとか良いんじゃいかな?」
直属の部下と共に、私はハロウィンのメインキャラクターについていくつかアイデアを出していた。
「ハロウィンにピエロ、あー。そうですね。まぁ、えっとうん。悪くはないんじゃないですか?」
言葉を濁しながら、イエスともノーとも取れる回答をする部下。

「それはつまり賛成ってことで良いのかな?」
「賛成ってわけではないですけでど、どうしてもって言うのならそこまで反対はしません。でももっと良いアイデアがあるような気がしないでもないというか。でも別に僕はそのアイデアを出すほどの自信もあるわけじゃなくて」
まどろっこしい。海外での歯に衣着せぬ物言いや本心から生まれる議論に慣れていた私にとって、彼のようなどっちつかずの主張はどうしようもなくもどかしかった。

「つまりどっちなんだ。アリなのかナシなのか。率直な意見を言ってくれ。別に君を責めやしない」
そこで彼は、しばらく眉間にしわを寄せていたものの、やがて少しずつ話し始めた。
「なんというか、ピエロって僕個人としては苦手なんですよ。僕個人としてはですよ?あくまでも個人の見解です」
「わかったわかった。で、それは一体なぜなんだ?」
「苦手なものは苦手、としか言えないのですが、でもピエロ恐怖症っていう言葉があるくらいじゃないですか」
「聞いたことがあるような気がする」
「ピエロって泣いているのか笑っているのかわからない。本心のわからない顔をしていますよね」
「本心が分からない……。まぁ確かにそうだな」
「そのちぐはぐさに異常なほど恐怖を抱く心理状態のことです。僕もまさにそれでして。日本ではピエロってなかなか馴染みがないですし、親近感を持ってもらうという点では逆効果になってしまうかもしれません」
「なるほど」
私は素直に納得した。意外にまともな指摘ができるじゃないか。
「とても参考になった。だが、君、」
そこまで言いかけて私は口をつぐむ。余計な一言であるとも言えたし、わざわざ出会ったばかりの彼を不快にさせたり、「あいつは海外かぶれの男だ」なんて思われるのは得策でないような気がしたからだ。

私は彼にこう言いたかった。
本心が分からない、という点で言えば君のような日本人も似たよったりではないか、と。


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