「転々とする男女」


俺が管理しているマンションの一室で自殺があったと聞き、慌てて飛んで行った。
部屋には首吊りの死体がいる。全く勘弁してほしい。

この後の掃除の手配や事故物件として処理を考えると、心底気分が重くなる。


すぐさま清掃業者に連絡をし、一旦マンションを後にしようとエントランスから出たその時、前からやってきた二人組の男女に声をかけられた。

「あのぉ?」
小太りで無精髭の目立つ不摂生な男。髪が長く陰気な顔をした女。
どちらも不気味」という点ではお似合いのカップルに見える。


「管理人さんですよね?」
「はい、そうですか」
俺は二人から少し距離を取って答えた。

「このマンションで自殺があったんですよね?」
「え、まぁ」
記者だろうか?それともオカルトマニアか?俺は一瞬で様々な可能性を頭の中で巡らせてみる。

「つまりその部屋って、今後は事故物件ということになりますよね?自殺者が出たんですから」
男は構わず話し続ける。女はその横で、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。

「そうですね」
「事故物件となると、次の人を探すのはさぞ大変でしょう」
「ええ。それがどうかしましたか?」
俺は少し棘のある口調で返答した。この忙しい時に、くだらない茶番に付き合っている時間はない。

小太りの男はそれに動じることなく、ニヤニヤと笑っていた。
「そんな怒らないでください。僕はある提案をしに来たのです」
「提案?」
「事故物件は、次に住む人間に対して説明義務がありますよね?それを聞いて住みたがる人など滅多にいませんし、下手に家賃を下げて募集すれば事故があったことを世間にアピールしているようなもの。なんとも扱いにくい」
「そんなことはわかっています。だから悩んでいるのです」
「しかし、一度でも誰かが住めば法律上、その次の住人には説明する必要がなくなります」
「確かにそうですが。それで一体何が?」
「僕が住んであげましょう」

俺は眉をひそめた。
「あなたが?」
「ええ。1ヶ月。家賃は払わなくても良いという条件でしたら私が住んで差し上げます。しっかり住民票を移し、1ヶ月後には再び別の場所に移します。ここに住んだという手続きだってちゃんとします」
「本当ですか?しかし、何が起きるかわからない部屋ですよ。怖くないのですか?」
「全く」
男は首を振った。
「僕はあらゆる事故物件を回って生活しているのです。おかげで何が起きても気にも留めなくなりました。一人で生きていますし、周りに迷惑をかけることもない」
「一人で?」
その言葉が引っかかった俺は聞き返す。
そしてじっくりと男の隣に視線を移動させた。髪の長い女性は相変わらずぶつぶつとつぶやいている。

彼女の足元を見ると、雨など降っていないのにビチョビチョに濡れていて、なぜか裸足である。
ぞっと寒気がした。

小太りの男はこともなくこう答える。
「彼女だって慣れてしまえば可愛いもんです」





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