「植物人間」

地面から人間が生えるようになったのは果たしていつからだっただろうか?

全ての始まりは、畑から生えた一本の髪の毛。
不審に思った農家の男がそれを引っ張ってみると、確かな手応えがある。


彼はさらに力を込めて引いてみた。すると、そのまま人間が抜けてきたらしい。
ただ人間と言っても見た目がまさしく人のそれというだけで、息をしたり話をするなどの生命活動をしている気配はない。


みずみずしい肌、弾力のある肉、そして芳香な香り。


例えるのであれば彫刻の像とでもいうべきか。

ほどよくもリアリティでありながらも決して下品ではなく、自然が生み出した植物としての生命の輝きがある。またそれは男性とも女性ともつかない体つきをしていた。

乳房のようなふっくらとしたものが胸にありながらも、性器は存在しない。かつて、人間の下半身の形に酷似した大根が話題になったことがあったが、まさにそれの全身版に近いと言えた。

それで結局これは何なのだ?人々の関心はそこに集められる。

どうやら学会では「人間みたいな何かの植物」という結論に落ち着いたらしい。しかし依然としてそれが生えてきた理由は不明である。なぜ生まれたのか?なぜ今まで生まれてこなかったのか?どのような原理でこの姿になったのか?今もなお、誰にも分かっていない。


ただ世の中の出来事というものは得てしてこういうものが多い。現象があるからそれを後付けするような理論が生まれるのである。飛行機が浮いている理屈だって厳密には解明されていないというではないが。麻酔が効く理由だって現代科学では説明がついていないと聞いたこともある。

結局は人間など理性的ではなく、ただ目の前に自分たちにとって都合が良いものが現れてしまえばそれを受け入れ、感情的には「神の恩寵に違いない」といった言葉を持ち出し、理屈の上では「土壌の中で既存の植物が突然変異した結果だ」と言ったりするわけである。


とにかくそれは「植物人間」という名前が付けられた。


私は祖父の時代から農家の家系である。家の前には受け継いだ大事な大事な畑がある。そこにもまた植物人間は生まれ、そして私はそれを非常に重宝していた。きっかけは他の植物人間と同じ。ある日突然、髪の毛が土の中からニョキッと生えだしたのだ。

 
「これは噂のアレかもしれんぞ」
妻と一緒にそれを抜いてみると、予想通り、20代くらいの顔をした植物人間が姿を見せた。他の植物人間と同じく男か女かわからない。


「とても神聖な姿ね」
妻はウットリした口調で答える。私も同感であった。早速、私たちはこの植物人間を料理してみることにした。まず風呂へ連れて行き、シャワーで体の周りの土を取り払う。
既に植物人間に関する情報はあちこちに出回っていたので、それを参考にし、つま先から包丁で切り刻むことにした。何度もいうが「植物人間」は人間ではない。心臓だって確認されていないのだ。

植物人間の体からは、血が出ることも、包丁の刃が骨とぶつかることもなく、すんなりと細切れに切断された。皮の中は大根のように真っ白で、しっかりと身が詰まっている。一口かじってみると得も言えぬほどの甘さと歯ごたえを感じた。生でこれだけ美味なのだが、茹でることでさらに甘さが際立つらしい。


早速その日は、植物人間のおでんにしてみた。これがまた絶品。早速、近所におすそ分けすると大評判。
ありがたいことに、うちの畑の植物人間は普通のそれよりも絶品らしく、やがてこの味を求めてあちこちから客が訪れるようになった。



この植物人間を量産した結果、私は一代で財産を築きあげることに成功した。仕事は息子たちに託し、今や働かなくても十分すぎるほどの金がある。


さらに時が経ち、やがて私の体も衰え始めた。ベッドに横になり、窓の外に広がる一面の畑を見ていることが多くなる。息子や孫たちが精力的に畑仕事をしていた。収穫しているのはもちろん植物人間である。
 
「もし私が死んだら、遺骨は畑にまいてくれないか?」
死の実感がさらに強まったある日、私は妻にこう伝えた。
 
「わかったわ。」
妻は頷き、私が実際にこの世から去ると、彼女はその約束通り、私の死体を畑に埋めてくれた。私の人生を支えてくれたこの畑の土に、私は還ることになった。
 
そこでふと私は目を覚ました。いやそれは正確ではない。なぜなら私の周りは真っ暗なのだから。しかし意識ははっきりある。一体ここはどこなのだろうか?



途端、誰かが私の髪をおもいっきり引っ張った。

「イタダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!」

と叫び声を上げようとしたのだが、私の意志に反し、声は全く出ることはない。

それどころか、真っ白なこの体は指一本たりとも動かすことができないのだった。



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