「デジタル遺品」

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「初めまして、デジタル遺品センターの塩野です」
病院のベッドに座っている老女に向けて、俺は自己紹介をする。
「こんにちは。近藤です」
ぺこりとお辞儀をし、彼女は品の良い笑みを浮かべた。
「本日はどのようなご用件で?」
「私、どうやら死期が近いみたいでね。ちょっと身の回りの整理をしようと思っていたのよ。ネットの難しい話とかあんまり分からないから、おたくを呼んだってわけ」
 
「具体的には何をご希望ですか?」
「SNSをやっているんだけどね。そういうのも扱ってくれるのかしら?」
「アカウントの完全消滅手続き、SNSでの死去の報告や葬儀の案内、影響力のあるアカウントであるなら遺産として遺族への譲渡なども行っています」
「残念。そのどれでもないんだけど」
「弊社で対応可能なことであれば柔軟に相談に乗りますが」
「あら、それは嬉しいわね。ちょっと相談してみようかしら」

いきいきと目を輝かせる老女は、まるで同級生と話しているかのような錯覚を俺に与える。

 
「最近になって、高校時代の友達とSNSでやり取りをするようになってね。孫が誕生日になったとか、旦那さんと温泉旅行にいったとか、本当に取り留めない内容で恥ずかしんだけど」
 
「SNSとは本来そういうものです」
「ふふ、そうかもね。でも私にとっては生きる支えだったし、毎日の楽しみだったのよ。みんなあちこちに引っ越しちゃって簡単には会えないけど、あの子は今週末、何をして過ごすんだろうって想像したりして。でね、ふと思ったの。もしかしたら皆もそうなんじゃないかって」

「ご友人たちも、SNSが心の支えになっていると?」
「そう。私の思い上がりかもしれないけど、私が死んだらとてもがっかりするんじゃないかって心配になってね。だから、私が死んだ後も私のフリをしてSNSに投稿してくれるサービスがあったら良いなって思ったのよ。どうかしら?」

「随分とお友達思いなんですね」
「みんな大事な人だからねぇ。できれば安らかに楽しく老後を過ごして欲しいの」
「結論から言えば可能です。あらかじめ近藤さんのプロフィールを登録し、AIがそれをランダムに組み合わせ、さもあなたであるかのように投稿することはできるかと」

「本当?」
老女は、パッと顔を明るくさせる。
「じゃあ、お願いしようかしら」

そこで手に持っているスマホを俺に渡す。
「パスワードはかかっていないわ。そのままログインできるはずよ」
「わかりました」

「どうかお願いします」
老女は恭しく頭をさげた。





俺は病院を出ると、早速彼女のSNSにログインしてみる。このアカウントを専用のアプリに読み込ませればものの数秒で作業は完了するだろう。

「ん?」
そこで俺は、彼女がフォローしている、彼女の友人と思われるアカウントを見て首を傾げた。

そのいくつかに見覚えがあったのだ。すぐに本部に連絡をし、浮かび上がった仮説の真偽を確認する。



「間違いなのか?」
「ええ」
電話の向こうから女の声が聞こえる。個人情報を管理している部署の人間だ。


「しかし、まさか全員とは」
電話を切った後、俺は思わず呟いた。




彼女の友人は、既に全員死別していたのである。







そして各々の故人は、自らの命が絶たれる前にうちの会社に依頼をしていたのだ。


「大事な友人のため、死後もSNSでは生きているフリをしてくれ」と。




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